嘉義 ~郷土の文化を訪ねる小さな旅~
企画構成/朱佳雯 文/朱佳雯‧楊善文 写真/宋育玫
台湾中部「嘉義」、かつては当地先住民の集落の名称にちなみ「諸羅」と呼ばれていた。また清代の町の形状にちなみ「桃城」という愛称もある。嘉義は肥沃な嘉南平原に位置し、北回帰線が通過する。気候温暖で農業が盛んだ。沿海部には豊かな漁場が広がり、阿里山からの木材を切り出す林業基地としても栄えた。
嘉義は文化の都とも呼ばれる。日本時代を代表する画家「陳澄波」は当地の出身で、国際管楽祭の開催地としても知られる。こうした風土を愛でて近年は当地に根を張り、起業を果たすアーティストも少なくない。今回は、「故宮南院」「檜意森活村」などのスポットともに、伝統工芸の工房や個性派ショップを訪ねる小さな旅へご案内しよう。
高速鉄道嘉義駅からBRT連絡バスで嘉義市内へ。あるいは台湾好行バス「故宮南院線」で故宮南院・蒜頭蔗埕文化パーク・檜意森活村などのスポットへ。台湾好行バス故宮南院線: jp.taiwantrip.com.tw/line/75?x=3&y=1
目次
嘉義県
故宮南院を訪ねる
国立故宮博物院南部院区
台北の故宮博物院は1965年の開館。清朝王宮に伝えられていた中国歴代の器物・書画・図書およびアジア各国の文物70万件を収蔵する。2015年末に高速鉄道嘉義駅のそばに分館といえる故宮南院がオープンした。モットーは、「アジア芸術文化博物館」。常設展のほかに「尚青—高麗青磁特展」「揚帆萬里—日本伊万里陶磁器特展」など諸外国と提携して特別展を開催している。一階の「児童創意センター」は子供たちを対象にしたコーナー。
展示内容のみならず、水墨画をモチーフにした博物館の建築そのものが注目を集めている。展示空間・文物庫・公共ホールからなり、中華・インド・ペルシャという三大文明が交流し合い、多彩なアジア文明が編み出された歴史を体現している。人工湖にかかる橋は草書の筆遣いが活かされ、玄関口の一つのアクセントになっている。まさに伝統と創新がコラボした現代感覚に満ちた博物館である。
嘉義県太保市故宮大道888号+886-5-362-0777
博物館9:00-17:00、パーク8:00-21:00 月曜休館
http://south.npm.gov.tw/ja-JP
成人NT$250
※できれば予めネットで入場時間を予約し当日チケットを受け取り入館
一足伸ばして…
蒜頭糖廠蔗埕文化パーク
故宮南院北口の向かいに位置する製糖工場。百年の歴史を有する史跡を利用し、製糖文化を伝える公園に生まれ変わっている。古い駅舎から出たトロッコは周辺を1時間近く巡る。
場内には木造駅舎・礼拝堂・宿舍などの歴史的建築が点在する。レンタサイクルを利用して朴子渓自転車道を巡る人も多い。食事は台糖自ら経営する火鍋店がお薦め。伝統のアイスキャンデーも健在だ。
嘉義県六脚郷工廠村1号+886-5-380-0741
8:00-17:00
パークは参観無料。トロッコはNT$100
※トロッコは10:00と15:00発車。団体は予約可
嘉義市
注目アートスポットを巡る
森林之歌
嘉義市林業文化パークには王文志が創作した大型装置芸術が設置されている。高々と聳えるヒノキと阿里山森林鉄道をコンセプトに、原木・軌道・黄籐および石材を素材に制作されている。かつて「木材之都」と称えられた嘉義にふさわしい作品である。籐で編まれた隧道を抜けると玉子型の本体に達し、そこには太陽と月が出ている仕組み。ヒトと自然の調和が謳われている。
嘉義市文化路林森西路地下道そば終日開放、夜間ライトアップ
月影潭心
蘭潭風景区に設置された王文志の作品。蘭潭は面積約70ヘクタールで、三百年前にオランダ人が水源として穿ったと伝えられる。オブジェはアルミニウムを素材に鳥の巣状をなしている。上部は桃を想起させるが、これはかつて「桃城」と呼ばれた歴史にちなむ。鳥の尾のような先端の形状は当地名物「鶏飯」にヒントを得たもの。
嘉義市鹿寮里紅毛埤187号之4終日開放、夜間ライトアップ
伝統文化を巡る
豊益打字印刷材料行
嘉義市新栄路上にたつ70年の歴史を誇る印刷工場。鉛の活版時代以降の台湾印刷史を体現した店だ。第二代オーナーの羅伸茂は鉛製の活字にかかわる文物を受け継ぎ、いまなお往時の原風景を保存している。その量は台湾随一とも言われ、18万個の凹版活字、25万個の孔版活字、そして活字鋳造機が8台と、デジタルの時代にあってはいずれも希少な文化資産である。
嘉義市西区新栄路58号+886-5-222-5265
月曜-金曜9:00-12:00、14:00-18:00
※活字参観時は要予約
光彩繡荘
紺碧の輝きを放つ各種刺繍。これらは寺や廟の神像が身にまとう「神明衣」あるいは祭事に使用する旗幟および服装である。図面を描き、綿を入れ、金線・彩線・絞りを施し、完成させるのに20日はかかるという。そこに描かれているさまざまな紋様は台湾の宗教文化を体現している。
博物館ともいえる店内だが、寺廟の装飾に使われている小物も購入可能だ。
嘉義市東区建国里光華路173号+886-5-222-9788
月曜-金曜8:00- 18:00、週末不定期
嘉義針車行
中正路上にたつ1944年創業の「嘉義針車行」は嘉義最古のミシン店。いまなお伝統の縫製機材を製造・販売している。1932年出生のオーナー呉謝秀蓮女史はこの商店街で産業の盛衰を目の当たりにしてきた。すでに二代目が経営を引き継ぎ、近代的なマシーンの販売がメインとなっているが、店内には懐かしい文物が保存されている。一つの使命を後世に伝えているかのようだ。
嘉義市西区中正路453号+886-5-222-2743
月曜-土曜8:00-18:00、不定休
慈濟宮
1843年創建の慈濟宮は嘉義市でもっとも早期の王爺廟。主神は五府千歳で、清代末期から民国初期にかけて当地の人びとの篤い信仰を受けた。1918年に台南から八家将を導入し、嘉義市八家将の開宗流派となる「如意振裕堂」を立ち上げるなど、百年近い時代の変遷を経て、当地に脈々と八家将文化を引き継いでいる。境内には絵師潘麗水の手描門神や彫刻家蔡有土の泥塑八家将軍、名匠陳專友の交趾陶装飾など国宝級の作家の作品が並ぶ。嘉義市内でもとくに文化的価値の高い史跡と言える。
嘉義市西区国華街216巷2号+886-5-222-5162
老建築を再生
嘉義文化創意産業パーク
嘉義駅そばの嘉義文化創意産業パークは面積約3.9ヘクタール。台湾には古い醸造所を再生させた文化パークが五か所あるが、中でもっとも歴史があり、製酒機具がもっとも保存されている産業史跡である。日本時代は清酒を製造していたが、戦後は台湾本島では最初に高粱酒を手掛け、「白酒故郷」とも称された。
1982年に工場が移転し、放置されていたが、2016年に「伝統芸術創新中心」としてリニューアルされた。その後、雲嘉地区の伝統工芸・視覚芸術・表現芸術・故宮南院アジア芸術文化博物館など続々進駐し、地方色豊かな美学スペースに生まれ変わった。園内には洗瓶機・貯蔵桶・酒瓶ベルト・煙突・ 高粱米貯蔵槽などの設備が保存され、百年の歳月を経た昔日の面影を伝えている。
嘉義市西区中山路616号+886-5-216-0500
10:00-18:00
台湾花磚古厝
1915年-1930年に「台湾花磚」と呼ばれる花柄のタイルが一世を風靡した。最近は見かける機会も少なくなったが、往時の細やかな暮らしぶりを懐かしむ市民も多い。オーナーの徐嘉彬もそうした一人で、故郷の嘉義市内に日本時代の古民家を購入し、台湾で唯一の花タイルの博物館「花磚古厝」を立ち上げ、貴重な生活文化の伝承と保存に取り組んでいる。
「花磚古厝」の準備に徐氏は20年の歳月を費やしたという。台湾各地の老建築で入手した花柄タイルは数千枚に達した。阿里山鉄道の線路そばにたつ古民家は日本時代の材木商店で、かつては阿里山から切り出した木材の販売にあたっていたという。徐氏はこの老建築に手を入れ、希少な花柄タイルの館を築いた。台湾建築史上も意義深い。
嘉義市西区林森西路282号+886-979-060-750
水曜-日曜10:00-12:00、14:00-17:00(正午二時間休憩のため閉館)、月曜・火曜休館
清潔費NTD50、チケットは参観当日博物館窓口で購入、チケットは全額館内で商品券として使用できる。
https://www.1920t.com/
25×40文化空間
オーナーの黄逸蓁は、40歳のときに老建築を手に入れ、カフェと手作り文化をコラボさせた交流の広場にリニューアルさせた。これは黄氏にとって、若いときからの夢だったという。当空間では、随時手作り教室や展示会が開催されているほか、旧市内を活性化させようと嘉義伝統文化を巡るツアーを企画している。
嘉義市西区中正路554号+886-905-188-033
13:30-21:00
口舍土也方
店名の「口舍土也方」は「啥地方」を分解した漢字の「遊び」。「どんな場所?」という意味だという。酒とアートを愛するオーナーの「阿夢」は、嘉義市中正路の路地裏にこの古民家を見つけ、東西・新旧が交錯するワインバーを開いた。厳選したワインやシャンパンを挟んで客人とワイナリーや産地について語るのが楽しみだという。
店内にはオーナー自らの作品のほか各地から集めた文物が並び、地元の愛好家たちの秘密基地になっている。
嘉義市西区中正路658号+886-5-229-0533
不定期に開店。要予約
承億小鎮慢讀
前身は25年の歴史をもつ書店だったが、2015年廃業。市民から惜しむ声が上がり、地元のブティックホテルグループの「承億文旅」が「承億小鎮慢讀」としてリノベーションし、2016年8月に開幕した。
書店当時の基本構造を残し、四層の空間に、日本の「蔦屋」に似たコンプレックスな店舗設計に仕上げた。文教地区の風土に配慮した選書と設計が自慢。一階の設置された中二階は静かな読書室風。かつて嘉義農協が使用していた金庫空間は、まるで秘密基地のよう。書籍は承億オリジナルデザインのパッケージでラッピングすればすてきなプレゼントに仕上がる。二階は「文創選物市場」と銘打って、三十数軒の台湾ブランド品を販売。
一階の「那個那個咖啡」ではコーヒー、スイーツ、ホットサンドイッチなどの軽食がそろう。ステーキとマッシュルームソースを挟んだボリューム満点の「チーズステーキサンドイッチ」は、豪快に味わおう。
二階の「夢露冰菓室」では懐かしい台湾アイス、ジェラートを提供。かき氷は5種のトッピングを選んで、友達と分け合いたい。
三階にはバー「Long Light」もそろって、大人の空間になっている。四階の講堂では随時作家・アーチストの講演やライブを開催している。「承億小鎮慢讀」は普通の書店とは一線を画した、ちょっとおしゃれな空間だ。普段着で立ち寄れる市民と旅人の文化基地ともいえる。
嘉義市東区中山路203号平日10:30-21:30、週末10:00-22:00
http://www.facebook.com/ChanYeeBookTown
檜意森活村
嘉義市内の北門驛は、阿里山森林鉄道の以前の起点駅。かつては多くの木材がこの地に運び出されたことから、周辺には材木業者や製材工場が勃興した。日本時代、この辺りにあった嘉義林場の宿舍の建材は、すべてヒノキ製であった。「檜意森活村」は2014年に28棟の和風建築をリニューアルしてオープンした。地場産業とブランドを結集した文化基地で、格好の土産物がゲットできるのもうれしい。
散策に疲れたら「木更咖啡」で一休み。特製のマドレーヌや地元産のお茶がいただけるほか、ときにライブの演奏も楽しめる。隅々に細かな設計が施され、庭の猫に癒されながら、午後の一時を過ごしたい。
檜意森活村
嘉義市東区林森東路1号
木更咖啡
嘉義市東区共和路356巷5号(檜意森活村T29棟)
水曜-日曜11:00-19:00、月曜‧火曜定休
アートな気分で泊まる
承億文旅 桃城茶樣子
「承億文旅」は台湾の著名なブティックホテルブランド。淡水・台中・嘉義および花蓮にそれぞれの風土に合わせた宿を展開している。そのうち「桃城茶樣子」は阿里山茶がテーマ。不規則に外形は茶箱を積み重ねた様子をイメージしたという。ロビーのカウンターはかつて茶葉店の体裁が再現されている。チェックインが済むと、スタッフが真心を込めてお茶を入れてくれるのもうれしい。
部屋は二人用と四人用。いずれも室内には茶器が用意され、自在にお茶が楽しめるほか、茶の香の沐浴も提供している。またデザイナーの個性が生かされたアートスイート三室も人気を集める。屋上のインフィニティプールの向こうには嘉義市内が展望できる。夜間には「23.5 lounge」に変身するので忘れられない嘉義の夜となるだろう。美食や美景のスポットなど、スタッフは気軽に問い合わせに応じてくれる。
嘉義市東区忠孝路516号+886-5-228-0555
www.hotelday.com.tw/hotel04.aspx
一足のばして行きたい観光スポット
台南市の最北端に位置し、良質な米を産出する米の里としても知られる後壁。美しい田園に囲まれた老街で美味しいお米を味わったり、農村でアートを楽しんだり。優しい時間に、心もほっこり。
嘉義 マップ
※掲載情報は取材時のものであり、現在の情報とは異なる場合があります。