大稲埕 古い街の新しい横顔
企画構成/高田雅子 文/高田雅子 写真/陳正國・張晉瑞
大稲埕
古い街の新しい横顔
淡水河沿岸の大稲埕は、清代末期から日本時代にかけて水運で栄えた港町だった。現在も迪化街を中心に、アーケードを持つ赤レンガ造りの「街屋」と呼ばれる商家の建物が立ち並び、乾物、漢方薬、茶葉、布地を取り扱う老舗問屋が軒を連ねている。近年は古い商家のリノベーションも進んでおり、新スポットも続々登場している。懐かしい雰囲気が漂う通りを歩きながら、古い街の新しい横顔を探してみよう。
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目次
大稲埕遊客中心
レトロな世界にタイムトリップ
台北市のトラベルサービスセンター「大稲埕遊客中心」が、大稲埕の新しい観光スポットとして注目を集めている。館内施設は、1階が観光パンフレットや各種観光情報、携帯の充電サービスなどを提供するカウンターで、2階と3階が2021年のリニューアルオープン時に新設された撮影セットとなっている。
2階の「客安中薬行」は伝統的な漢方薬店、「春生喫茶店」は1920年代の喫茶店を再現した本物の店舗のような空間。レトロ衣装レンタルを行っている「菊元治装所」でチャイナドレスを借りれば、モデル気分で撮影がより盛り上がるだろう。
3階の「永楽燈苑」は天井一杯にカラフルなランタンが吊るされた幻想的な雰囲気。椅子と机が並ぶ教室「稲江公学校」は休憩室としても利用できる。いずれも参観無料で自由に撮影が楽しめる。レトロな世界で大稲埕らしい記念写真を撮影しよう!
大稲埕遊客中心
台北市大同區迪化街一段44號
02-2559-6802
9:00-18:00
入館無料
菊元治装所(2Fレトロ衣装レンタル)
10:00-17:00(午前10:00-10:30受付・12:00返却、午後13:00-13:30受付・15:00返却、午後15:30-16:00受付・17:00返却)
予約制、レンタル無料、要保証金NT$1000(衣装返却時返金)・身分証
オンライン予約:https://travel.taipei/vintage-clothing/
※前月の10日よりオンライン予約受付開始(例:4月分予約は3月10日から受付)
※当日空きがあれば現地申込可
葉晋発商號
米産業の歴史を伝える生きた博物館
「大稲埕」の地名は、清代に淡水河沿岸に広がっていた稲を干す広場「埕」に由来する。このころ大稲埕では「土壟間」と呼ばれる籾摺業者が、収穫した稲から籾を取り脱穀し、乾燥させてから籾摺りを行い米を玄米に加工していた。動力化が進んだ1920年代から30年代ごろには大稲埕の大橋町に46軒の工場が林立し、籾摺業は最盛期を迎えた。業者は台湾各地の農家から安価な籾を購入し、大量の籾を籾摺りして玄米に加工。これを移出商・輸出商・白米小売業者に販売し、利益を得ていた。
日本時代、「葉晋發商號」は日本へ米を送る籾摺・精米工場のうち、台北でもっとも規模が大きい工場のひとつだった。現在の店舗は、渡台初代当主の葉寬氏が1923年(大正12年)に購入した建物で、1階手前が店舗、1階奥がは籾摺工場・穀倉・応接間、2階と3階が住居空間として使われていた。豪商となった葉家は、幅広い人脈を持つ街の名士として、豊富な資金で芸術家の支援も行っていた。
現在、店舗建物は歴史建築に指定され、一般にも公開されている。籾摺関連の文物をはじめ、葉家所蔵の豪華な家具や楽器、古い写真などを通して、大稲埕の米産業の歴史と豪商の優雅な生活風景に触れてみたい。
台北市大同區迪化街一段296號02-2550-5567
13:30-17:00、月曜・火曜定休
見学エリア:NT$100
facebook.com/yehjinfa1923
◆ 2023稲埕食光祭 ◆
2023年6月に開催される大稲埕の米産業をテーマとした産業創生・食農教育イベント。6月24日(土)と25日(日)に会場を歩行者天国にして実施する台日交流クリエイティブマーケットには、葉晋発をはじめとした台湾ブランドのほか、日本ブランドも参加する。
会場:台北市大同區迪化街北段(涼州街―民權西路間)
会期:2023年6月10日(土)~30日(金)
台湾新文化運動紀念館
警察史と台湾新文化活動の語り部
建物の前身は1933年(昭和8年)に完成した二代目台北北警察署庁舎。建物は2階建てのコンクリート建築で、設計は台湾総督府官房営繕課が担当した。外観は流線形を呈しており、正面中央エントランスの西洋式の円柱や2階の半円形の窓が優美な雰囲気を醸し出している。
外壁に使用されている北投窯廠製造の褐色のタイルは、中山堂などにも見られる日本時代の建物の特徴のひとつだ。建物奥に残る扇形拘留室と水牢は台湾唯一のもので、台湾の警察史における重要な遺物となっている。
戦後は台北市警察局と改称され、2012年に警察局が新住所に移転したのち、改修を経て2018年に「台湾新文化運動紀念館」としてオープンした。「台湾新文化運動」とは、林獻堂や蔣渭水が1920年代に立ち上げた「台湾文化協会」から始まった、社会主義や民族主義に影響を受けた台湾の知識人による文化・政治啓蒙運動を指す。
館内では、台湾新文化運動の歴史や社会への影響などを、パネル展示やゲームなどの体験型展示で分かりやすく紹介している。1階にはカフェも併設しており、歴史を感じられる優雅な空間でティータイムも楽しめる。台北市定古跡。
台北市大同區寧夏路87號02-2557-0087
9:30-17:30、月曜休館
入館無料
tncmmm.gov.taipei
※館内撮影時はフラッシュ・三脚・自撮り棒等の撮影補助機材使用禁止
有記名茶 × Wangtea Lab
台湾茶の歴史を未来へつなぐ茶商
朝陽茶葉公園前に佇む「有記名茶」は、大稲埕の茶の歴史を見守ってきた老舗茶商。オーナーの王氏の先祖は、鐵觀音茶の故郷として知られる中国福建安溪で代々茶に携わってきた茶農家で、1890年に茶商「王有記茶荘」を創業し、1907年に台湾茶の重要な輸出拠点だった大稲埕に進出した。
1949年に工場を現在地に移し、現在も店舗内の精製工場で荒茶の仕上げを行っている。工場では、熟練の茶師が荒茶をランク別に選別し、茎や葉脈を取り除き、「焙籠間(焙煎室)」で茶葉を炭火焙煎。さらに産地や収穫時期、色、味、香りの異なる茶葉をブレンドし、常に同じ品質と味わいの茶葉を消費者に届けている。
店頭では試飲が可能で、茶葉ごとの発酵と焙煎の度合いを記したチャート表も参考にできるので、きっと好みの茶葉が見つかるだろう。
有記名茶東隣の「Wangtea Lab」は、若い人にもっと自由に台湾茶を味わってほしいと、五代目オーナーが2020年に立ち上げた有記名茶の新ブランド。「ラボ」の名の通り、ここは有記名茶の茶葉と異なる抽出法を組み合わせた、新しいお茶の味わい方を提案する台湾茶の実験室だ。
抽出方法は、茶葉にお湯を注ぎ濾す「手沖Pourover」、ティーエスプレッソマシンを用いて抽出する「原片萃茶Leavespresso」、その場で挽いた茶葉にお湯やミルクを注ぐ「濃縮萃茶SHO[T]」、炭酸ガス(CO2)または窒素ガス(N2)を充填する「汲飲茶Draft」の4種類。なかでも「Draft」はまったく新しいお茶の味わいが楽しめると評判だ。
炭酸ガス入りのお茶は炭酸の酸味がスイーツの甘みを引き立て、窒素ガス入りはお茶にまろやかな口当たりを加えてくれる。ベースとなるブレンド茶により、味わいが多彩に変化するのも楽しい。古民家を改装したモダンな店舗で、100年の歴史と新時代の息吹を感じさせてくれる新しい台湾茶を味わおう。
有記名茶
台北市大同區重慶北路二段64巷26號
02-2555-9164
9:00-18:00、日曜定休
wangtea.com.tw/home-jp
※工場見学は要予約
Wangtea Lab
台北市大同區重慶北路二段64巷24號
02-2558-5551
10:30-19:30、日曜10:00-19:00
ミニマムチャージ:1人1杯ドリンク、席利用:90分
www.wangtealab.com
AKA café
大正浪漫薫るティーハウス
オーナーのNEO氏は建築デザイナーで、日本の草月流いけばなの1級師範免許を持つ文化人。彼は築100年の大正時代建設と伝わる洋館をリノベーションし、伝統建築やバロック建築などの要素を融合させた大正浪漫薫る華麗なカフェに生まれ変わらせた。建物の1階はカフェ、2階は茶道と香道の体験空間、3階はオーナーの私的な応接室と草月流いけばな(華道)教室となっており、不定期でライブやイベントも開催している。厳選したスペシャルティコーヒーに、台湾産の烏龍茶やコーヒー、フルーツなどを使用した、台湾の味覚を存分に楽しめるスイーツセット「甜點盒」をあわせて、優雅なティータイムを満喫したい。
台北市大同區民樂街66號後棟02-2550-1280
11:00-19:00、火曜定休
予約制、ミニマムチャージ:1人1杯ドリンク、席利用:90分
facebook.com/aka.cafe.tw
※館内は自席でのみ撮影可、席を離れての撮影不可
幸発亭蜜豆冰(大稲埕)
台中発のレトロな老舗甘味店
1938年(昭和13年)に台中駅前で創業した老舗かき氷店。創業者が日本のみつまめを参考にして作ったかき氷が台中市民に愛されてきた。台中本店はコロナの影響で2021年に惜しまれながら閉店したが、三代目オーナーが2022年に台中から大稲埕に店舗を移したことで、老舗の味が台北で味わえるようになった。
名物かき氷「招牌蜜豆冰」は、煮豆やフルーツのシロップ煮、フレッシュフルーツをトッピングした具だくさんのかき氷。さっぱりとした味わいで、透明のかき氷「清冰」か、ふわふわのミルクかき氷「雪花冰」が選べる。冬場は、リュウガンの濃厚な香りと甘さが楽しめる、小豆、緑豆、白玉などが入った甘いお粥「八寶米糕粥」がおすすめ。
台北市大同區迪化街一段196號02-2553-7787
11:30-18:30、水曜定休
ミニマムチャージ:1人NT$120、席利用:休日は1時間
facebook.com/singfating
杜甲 A-Ma 台北迪化店
選び抜かれた極上唐辛子
ブランド名の「杜甲(DoGa)」は創業者・李威辰氏の祖母の名前、「A-Ma」は台湾語で「祖母」を意味する「阿嬤」に由来する。李氏は2005年に台湾初の唐辛子スナックのブランド「DoGa」を立ち上げ、2013年に台南安平に第1号の旗艦店を開店した。唐辛子に白ごまを詰めたスナック「香酥脆椒」は、創業時から現在まで続く看板商品だ。
姉妹ブランドの「杜甲」は、2017年から唐辛子食品の新しい可能性の研究を開始。2021年には台北迪化街に進出を果たし、新たな唐辛子の世界を展開している。迪化店は唐辛子で埋め尽くされた入口わきの壁が印象的で、店内は高級食器店のようなラグジュアリーな雰囲気だ。
扱う商品は、白いご飯のお供にぴったりの食べるラー油をはじめ、完全無添加の透明でクリアなラー油、唐辛子や世界のスパイスのパウダー、唐辛子やハーブを加えたお茶、唐辛子のスナックや麺類など幅広い。味わい深い商品はパッケージも美しく、大切な方への贈り物にも最適だ。
台北市大同區迪化街一段159號02-2552-8787
10:30-18:30
facebook.com/DoGaAma
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※掲載情報は取材時のものであり、現在の情報とは異なる場合があります。