阿里山森林鉄道 ~台湾鉄道 途中下車の旅~
文/高田雅子 写真/宋育玫
阿里山森林鉄道
世界遺産級の登山鉄道で
パワースポット阿里山へ
阿里山森林鉄道(正式名称:阿里山林業鉄路)は、もとは日本時代の1906年に建設工事が始まった森林開発のための産業鉄道。複雑なループ線、スイッチバック構造など、登山鉄道の特殊な工法が使用されており、全線の海抜落差は2000メートルを超える。歴史的価値の非常に高い世界遺産級の登山鉄道だ。
世界中から観光客が訪れる人気観光鉄道だが、2009年の「八八水災」により十字路駅・神木駅間が寸断されているため、2019年現在、本線は嘉義駅・十字路駅間での運行となっている。阿里山駅からは、祝山線・沼平線・神木線の3支線も運行中だ。
海抜30メートルの平地から海抜2000メートル以上の高山まで登っていく阿里山森林鉄道は、平地から海抜800メートルまでが熱帯林、海抜1800メートルあたりまでが暖帯林、海抜3000メートルまでが温帯林となっており、熱帯林のガジュマルやタケ、暖帯林のクスノキやスギ、温帯林のヒノキなど、変化に富んだ植物分布も特徴のひとつ。急峻な渓谷や山脈の美しさも車窓に花を添える。
鉄道、森林、雲海、ご来光、夕焼けは「阿里山五奇」と言われている。樹齢1000年を越える巨木を育む阿里山の森林は、神秘的な空気が漂う台湾屈指のパワースポット。静かな山上に、日常から離れた極上の休日が待っている。
おすすめコース
1 日目 嘉義駅周辺スポット
2 日目 嘉義駅→十字路駅→阿里山駅周辺スポット
3 日目 祝山日の出鑑賞→奮起湖周辺スポット
- 阿里山森林鉄道嘉義駅から奮起湖駅または十字路駅下車、台湾好行バス阿里山線に乗換え阿里山バスターミナル下車
- 台湾高速鉄道嘉義駅から台湾好行バス阿里山線で阿里山バスターミナル下車
阿里山国家森林遊楽区
嘉義県阿里山郷中正村59号
+886-5-267-9917(ビジターセンター)
24 時間、年中無休
外国人NT$300
www.ali-nsa.net (日本語あり)
阿里山林業鉄道と文化遺産管理処
afrch.forest.gov.tw/Ja(日本語)
乗車券購入ガイド
afrch.forest.gov.tw/Ja/0000115(日本語)
台湾好行バス
www.taiwantrip.com.tw
本線
目次
嘉義駅
嘉義駅は阿里山森林鉄道起点駅。森林鉄道は台湾鉄道と嘉義駅1番ホームを共用している。阿里山森林鉄道で阿里山に向かう前日は、嘉義駅周辺での宿泊がおすすめ。
嘉義ではぜひ、名物の火鶏肉飯(鶏肉飯)を味わおう。「東門鶏肉飯」は、嘉義市内に2店舗を構える人気店。柔らかい七面鳥の肉、さっぱりしたたれ、白いご飯の組み合わせは日本人の口にも合う。嘉義市内には鶏肉飯の店がたくさんあるので、食べ比べてみるのも楽しいだろう。
東門鶏肉飯
嘉義市西区新民路846号
10:00–20:30
本線車窓風景のみどころ
台湾鉄道の軌間は日本のJRと同じ1067ミリだが、阿里山森林鉄道は軌間762ミリ。客車も小ぶりでかわいらしい。運転は、上りはディーゼル機関車が客車を押し上げ、下りはディーゼル機関車が客車を牽引する形だ。
嘉義駅を出発すると、続く北門駅と竹崎駅の2駅はレトロな日本式木造駅舎。竹崎駅を過ぎると列車は平地部と別れ、山岳部へと進んでいく。
次の樟脳寮駅を過ぎたら車窓の風景に注目しよう。樟脳駅から独立山駅まで高度200メートルを長さ約5キロメートルかけて登っていく「独立山スパイラルループ線」と呼ばれるポイントで、列車は円周をだんだん小さくしながら3重スパイラルを描いて独立山を登り、最後は8の字ループを描いて独立山を抜けていく。多くのトンネルとカーブが続く、登山鉄道ならではの風景が堪能できる奮起湖駅前最大のハイライトだ。
奮起湖駅
奮起湖駅は海抜1403メートルに位置する。駅前商店街「奮起湖老街」で販売している「奮起湖便當」は、台湾でもっとも有名な駅弁の一つ。以前は駅のホームで販売していたが、現在は各店舗での販売のみとなっている。
元祖の奮起湖大飯店では2018年に駅弁を全面リニューアル。「戦斧軟焼肉」は斧に見たてた骨付き豚肉と鶏もも肉が、「炫風烤鶏腿」は大ぶりの鶏もも肉がご飯の上に鎮座する。ノスタルジー溢れる金属製の弁当箱入りで、たっぷり野菜と煮玉子が添えられボリューム満点だ。
奮起湖老街を抜けて坂を下っていくと、かわいらしい青色の小屋「星光童話木屋」が見えてくる。2017年日本公開の台湾映画『星空』のロケ用に建てられた小屋で、映画撮影後に奮起湖に移築された。台湾の絵本作家ジミー(幾米)の絵本を原作にした映画そのままの空間での記念撮影が人気だ。小屋の前では、台湾固有のヒノキ科の常緑高木・肖楠木(ショウナンボク)の森林で森林浴も楽しめる。
散策後は坂の上のカフェ「山嵐小築」へ。テラス席で愛玉ゼリー入りのドリンクや台湾のコンテストで優勝したコーヒー豆を使用した「阿里山冠軍咖啡」など、阿里山の特産品を味わいながら、壮麗な山岳風景を満喫しよう。
奮起湖車庫
嘉義県竹崎郷
8:00-16:00
奮起湖大飯店
嘉義県竹崎郷中和村奮起湖178-1号
弁当販売:10:30 から売り切れまで
星光童話木屋
嘉義県竹崎郷中和村奮起湖49号
9:00-16:00
肖楠木歩道
嘉義県竹崎郷中和村奮起湖(星光童話木屋そば)
山嵐小築
嘉義県竹崎郷中和村奮起湖113号
月曜・日曜9:00-17:00、水曜- 土曜8:00-17:00
土曜・日曜・祝日はミニマムチャージひとりNT$100
十字路駅
十字路駅は2019年現在の阿里山森林鉄道本線終着駅で、嘉義駅から55.3キロメートル、海抜1534メートルに位置する秘境駅だ。駅舎横の展望台に上ると森林に囲まれた駅周辺が一望できる。休日には線路わきにカフェや屋台などが並び賑わう。
台湾好行バスへの乗り換えは、駅舎前方右側の階段を下りた阿里山公路のバス停から。バス乗車時は運転手に挙手で合図しよう。
祝山線
阿里山駅
阿里山駅は阿里山森林鉄道本線の本来の終着駅で、支線である祝山線・沼平線・神木線の起点駅。海抜は2216メートル。駅前はホテルや商店、レストランが並びにぎわうエリアだ。
毎年3月の桜祭りの際には曜日限定で阿里山・沼平間を檜木車両を連結した蒸気機関車が走り、台湾内外から多くの花見客と鉄道ファンが駆けつける。台湾最大の木造駅舎としても有名。
阿里山駅から各支線への乗換え
祝山線
運行時間:日の出の時間により毎日変動
乗車券販売時間:13:00-16:00
翌朝分の乗車券を嘉義駅、北門駅、奮起湖駅、阿里山駅で販売。ホテルでも代理購入を行っている場合が多いので、ホテルチェックインの際に確認しよう。
沼平線・神木線
乗車券は乗車する各駅で購入
運行時間は公式サイト支線時刻表を参照
https://afrch.forest.gov.tw/Ja/0000300(日本語)
※ 沼平駅から神木駅までの森林歩道は下り坂が多く歩きやすい。神木駅から阿里山駅方面は上り坂が多くなるため、阿里山駅から先に沼平駅へ向かい、森林歩道を経て神木駅から神木線で阿里山駅に戻ると体力的に楽だろう。
祝山駅
日の出鑑賞のために1986年1月に設置された祝山駅は、海抜2451メートルに位置する「台湾で海抜がもっとも高い駅」。明け方、まだ暗い中を列車に揺られ祝山へ。
日の出鑑賞には、駅前の展望台からさらに歩いて10分ほど上がったところにある「小笠原山展望台」へ向かおう。360度のパノラマビューのなか、ご来光を拝むことができる。時間があれば、帰りは祝山観日歩道をゆっくり散策しながら下山するのもおすすめ。
沼平線
沼平駅
沼平駅の海抜は2274メートル。日本時代の1914年に「阿里山駅」として開業し、1981年1月に現在の阿里山駅開業に伴い「沼平駅」と改名された。2013年に使用開始となった現在の新駅舎は、日本人建築家五十嵐信夫氏の手によるもので、2階部分に日本の伝統的な木造建築の手法が取り入れられている。商店やアート展示スペースも備えるモダンな駅だ。
沼平駅から北へ5分ほど歩くと森林歩道入口に到着する。深い森林に足を踏み入れると、空を覆い隠すほど背の高い木々が圧倒的な存在感で迫ってくる。ウッドデッキを進んでいくと、沿路には姉妹の悲恋の伝説があるという2つの池「姉妹潭」、2本の木が繋がりハート型のように見える「永結同心」などの見どころが続く。
森林歩道の中ほどにある受鎮宮は主神に玄天上帝を祀る廟で、現地の人びとの信仰の中心。廟前の商店街では軽食や阿里山茶、山葵などの特産品を販売しているので、散策中の休憩に寄り道するのもおすすめ。
受鎮宮
嘉義県阿里山郷香林村45号
神木線
神木駅
受鎮宮から阿里山賓館方面に進むと桜の広場に出会う。中でもひときわ美しい枝振りのソメイヨシノが「桜王」と呼ばれる名木だ。毎年2月から3月の桜の季節は、桜王から神木駅方面に続く小道「桜木花道」でも数種類の桜を鑑賞できる。
桜木花道を抜けると、再び緑深い森林歩道が始まる。森林の名木の中でひときわ迫力があるのが「香林神木」だ。旧名を「光武檜」という推定樹齢約2300年のタイワンベニヒノキで、落雷による衰弱で倒れた初代神木にかわる「2代目神木」に選定され、阿里山の精神を引き継ぐシンボルとなっている。
香林神木から森林歩道をさらに下ると、海抜2138メートルの神木駅に到着する。線路わきには、かつて阿里山の象徴としてそびえていた樹齢3000年以上といわれる初代神木の切り株と切り倒された胴体部分が「阿里山神木遺跡」として保存されている。
神木駅最大の特徴は折り返し式スイッチバック構造。十字路駅から阿里山駅までの急な斜面を前後が交互しながらZ型にジグザグに登っていくように敷かれた線路で、同区間が運行していた頃は、駅での折り返し運転は森林鉄道のハイライトのひとつだった。もうひとつの見どころは神木駅・阿里山駅間の大カーブ。機関車と客車を同時にカメラに収められるシャッターチャンスをお見逃しなく!
阿里山のホテル
阿里山賓館
アリシャンハウス
山中の桃源郷に佇む極楽ホテル
海抜2274メートルに佇み、「台湾一美しい高山の宿」と称えられる阿里山賓館は、大正時代に創業し100年以上の歴史を持つ老舗ホテル。宿泊棟は歴史館と現代館の2棟。
日本時代の19013年建築の歴史館は優美な檜造り建築で、台湾内外の要人や海外の有名人などの賓客をもてなしてきた。館内には阿里山とホテルに関する資料も展示されており、建物そのものが博物館のよう。午後のひと時は、レトロで優雅な雰囲気の「50年代カフェ」へ。コーヒーを片手に100年の歴史に思いを馳せよう。
2012年に新設された現代館の客室は白と木目を基調とした落ち着きのある空間。バスルームはバスタブと洗い場が分かれており、トイレも独立。客室には暖炉風の暖房設備があり、冬でも暖かく寛げる。
朝食と夕食は1階ビュッフェレストラン「麗景庁」へ。自然光が差し込む開放的な空間で、窓の外に広がる森林や中庭を眺めながら中洋ビュッフェが楽しめる。天気のいい日は、屋上の展望台から眼下に広がる雲海やオレンジに空を染める夕焼け、満天の星空を眺めたい。
ホテルを出てすぐに森林散策が楽しめるのも、森林の中という最高の立地ならでは。美しい阿里山の自然に抱かれ、心と身体にみずみずしいパワーをチャージしよう。
阿里山賓館
嘉義県阿里山郷香林村16号
+886-5-267-9811
www.alishanhouse.com.tw
ホテルシャトルバス
ホテル・ビジターセンター・バスターミナル間の定時無料シャトルバスあり
一足のばして行きたい観光スポット
阿里山森林鉄道の出発点・嘉義は文化の都とも呼ばれる。古跡や文化施設、おしゃれなカフェなど見どころいっぱいの街を、じっくり楽しもう!!
阿里山森林鉄道 観光マップ
※掲載情報は取材時のものであり、現在の情報とは異なる場合があります。