龍潭 客家の伝統集落を歩く
文・写真/張立宇
桃園市龍潭
客家の伝統集落を歩く
龍潭(ロンタン)は台湾本島北部、桃園市内の客家(ハッカ)の集落。街の中心である伝統的な商店街「三坑老街」は、近隣のにぎやかな大渓老街とは異なり、タイムトンネルを抜けたようなノスタルジックな佇まい。古い街屋が並ぶ街道で客家グルメを堪能したら、近年多くの若者が集まりクリエイティブなショップが続々と誕生している新スポット「菱潭街興創基地」に足をのばしてみよう。
台三線 = ロマンチック街道とは?
日本に奥の細道があるように、台湾には台三線がある。台三線は俗に内山公路と呼ばれ、台北から屏東まで本島を南北に貫く総延長436.8キロに及ぶ街道。そのなかで「台三線客庄浪漫大道(客家の里ロマンチック街道)」は桃園平鎮から台中新社までの約150キロを指し、その間沿線には客家の集落が続く。
目次
三坑老街
龍潭の開発は大漢渓河畔の「三坑(サンケン)」から始まった。当時は水運が活発で、三坑は物資の集散地として栄え、多くの客家人が集まったという。彼らが開いた「龍潭大池」は周辺の農地を潤し、当地開拓の基礎を築いた。
水運業の衰微とともに「三坑老街」もその賑わいを失うが、往時の繁栄を偲ばせる古い街屋が独特の風情を醸し、近年多くのツーリストが訪れるようになった。長さわずか百メートル余りの三坑老街は「台湾でもっとも短い老街」と呼ばれる。街道の一端には百年の歴史を誇る永福宮がたち、今も昔も信仰の拠り所となっている。
龍潭は客家の移民が多かったことから、今も商店街の食事処では客家伝統グルメが満喫できる。平日ならのどかな散策が楽しめるだろう。週末や休日にはすべての店舗がオープンするほか、近隣農家も屋台を出し、往年の人出が戻ったかのように活気づく。
老街を一歩抜けると農地が広がり、田園風景が楽しめる。林間の遊歩道をたどれば、サクラやアブラギリの小道、楓香神木といった地元のスポットに出合える。レンタサイクル(週末のみ営業)を利用すれば三坑自然生態公園・大平紅橋へも足をのばせる。
桃園客運バス中壢ターミナルより台湾好行バス慈湖線に乗車、「三坑老街」下車
黒白洗
三坑老街入口に位置する「黒白洗」は、かつて婦人たちが集う洗濯場だった。「黒白洗」の地名は当地の言葉で、他愛もない会話を「黒白講」、適当に洗うことを「黒白洗」と呼んだことに由来する。石門ダムを水源とし、年中清流が絶えない。洗濯場水路わきには石の洗濯板や手押しポンプが残され、今はツーリストたちの格好の遊び場になっている。
三坑自然生態公園
地元の人たちが憩う風光明媚な秘境が公園として整備されている。三坑の中心街から約2 キロ、大きな池を中心に緑の山麓が広がる。ときにシラサギなどの水鳥が訪れる様子は絵画の趣。
園内には木橋や東屋が配置され、広々とした芝生では家族連れがピクニックを楽しんでいる。夏になると水遊びのスペースは子供たちの歓声が絶えない。公園そばの大漢渓堤防には艶やかな色彩で絵が施され、遥かに石門ダムが眺望できる。
桃園市龍潭区三坑里
大平紅橋
台湾百大歴史建築物にも選ばれた大平紅橋。1923 年創建と、百年近い歴史を擁する。かつて村民たちが三坑への往復に必ず渡る通り道だった。橋脚は五つのアーチから構成され、橋体は赤レンガ造り。幅わずか二メートルの素朴な佇まいながら、歴史に満ちている。小ぶりな親水公園が整備され、周辺の桜花歩道・親水歩道にもつながる。散策に最適のスポットだ。
桃園市龍潭区石門路55 巷内
阿琴小吃
「粄條」「湯圓」「米粉」といった客家伝統グルメを販売する、手軽な地元の小吃店。純米ライスヌードル「粄條」は、シンプルに特製のたれのみでいただく。湯圓は甘みのある白玉のスープが一般的だが、当店のものは塩味スープで、日本のすまし雑煮のような風味だ。
桃園市龍潭区三坑老街76 号+886-3-479-3070
24 時間
阿香菜包
客家の家庭に伝わる「菜包」「艾粄(草餅)」「包子(肉まん)」などを販売。いずれも都会では味わえない地元の風味だ。もち米を原料に蒸し上げた客家菜包の外皮は、もっちりとした歯ごたえ。中の餡は切り干し大根・蝦米(オキアミ)・ひき肉など。黒胡椒の香りにひきつけられる。
桃園市龍潭区三坑老街43 号+886-3-471-2559
7:00-17:00(月曜定休)
阿秋姨牛汶水
「牛汶水」とは、「もち」の一種。通常のものより弾力があり、黒糖・ショウガ・ピーナッツ・ゴマなどが複雑なハーモニーを奏でる。食べれば元気が出る、客家農家の伝統的なおやつだ。
桃園市龍潭区三坑老街45 号+886-3-471-2131
土曜・日曜8:00-18:00
菱潭街
若者たちの夢を育む「菱潭街」
龍潭大池に近い「菱潭街興創基地」は、若者たちが創造性を発揮しているエリア。かつて市場のフードコートがあったが、火災などに遭遇し、十数年にわたり閉鎖されていた。2017 年に地元の青年たちがクリエイティブバザールの開催を通じて意気投合し、龍潭の旧称「菱潭」を冠した起業基地の立ち上げに取り組むこととなった。
菱潭街に入ると、灯籠やカラフルな壁画に彩られ、格好のインスタグラムスポットになっている。カフェ・小食堂・ドライフラワー店・リサイクル雑貨店のほかパフォーマンス・スペースや工房など、テーマの異なる23のブースが並ぶ。共通するのは、いずれも「創造」がテーマとなっていること。例えば「武威学堂」は複合的な文化空間で、たびたび講座やミニコンサートが開催されている。また不定期で短期の似顔絵描きやパフォーマーが登場したり、展覧会が開催されたりするなど、若々しいエネルギーに満ちている。
菱潭街を探訪するなら、やはり全店がオープンする週末や休日がおすすめ。若いオーナーたちの掛け声が交差し活気に満ちる。地方都市の人情や龍潭・菱潭の歴史に触れる絶好の機会となるだろう。地元のショップでは定時・定点ツアーも開催されるので、ぜひ参加してみたい。
「菱潭街興創基地」執行長 張智宇
龍潭出身の張智宇さんは、故郷の老建築や事物が次々に消失していくのを目の当たりにし、U ターンして、地元の若者とともに町おこしに取り組んできた。現在は「菱潭街興創基地」執行長を務める。
桃園市龍潭区南龍路44 号桃園客運バス中壢ターミナルより台湾好行バス慈湖線に乗車、「龍潭大池」下車、徒歩で約5 分
www.facebook.com/lingtanstreet/
桃澗堡故事屋
物語を通して幸せな気持ちを分け合いたいと、地元の小学校で語り部を務める女性が開いた。いろいろな物語を聞けるほか、扇子の絵付けなどのDIY 教室にも参加できる。週末には子供たちを連れて多くの家族連れが訪れる。
艸木間
台湾高山茶をはじめ多彩なティードリンクを提供するロハスなカフェ。お茶請けには台湾小吃の代表選手「刈包」を選んだ。風味は多彩で、三杯鶏・ピーナッツチーズなど珍しいテイストが週替わりで登場する。
一人食堂
各地をドライブしては地元の食材を持ち帰るのが趣味だった女主人。しかし地方へ行けば行くほど大きな包装で売られているのが悩みの種だった。そこで彼女は小さなパッケージで地産の良品を提供することを思いついた。店内では、防腐剤・添加物不使用のジャム・ビネガー・雑穀・調味料など安全安心な食品のほか、新鮮野菜を販売している。
一足のばして行きたい観光スポット
同じ桃園市のすぐ近くに位置する大渓老街には、かつて豪商たちが築いた豪邸が華麗な面影を残している。日本時代の木造建築も多数残る。リノベーションが進んだ古い建物に文化施設や商店が入居。街歩きが楽しいスポットとなっている。
桃園市 龍潭 観光マップ
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