小林賢伍 翡翠色の大地に恋して
取材・文/高田雅子 写真/小林賢伍・統一企業・宋育玫
写真家・小林賢伍
東日本大震災をきっかけに台湾と出逢う。2016 年から台湾に拠点を置き活動を開始。台湾の秘境や大自然、多元的な文化を題材とした作品を台湾内外に向け精力的に発表中。台北、台南での個展開催、台湾大学の講演会登壇など、活動の幅を広げている。2017、2018 年と台北新芸術博覧が選ぶ百大名人に選出されている。現在は、台湾原住民の伝統文化の撮影、記録、発信に力を注いでいる。2017 年、台湾原住民をテーマにした写真集「天」を自費出版。同年、モデルとして台湾のおやつ「科学麺」の広告に出演している。
「科学麺」とは?
「科学麺」は、味付けフライ麺風の、台湾人なら誰でも子供の頃から親しんでいる国民的なおやつ。袋に入れたまま砕いて、同封の調味料を振りかけて、そのまま食べるのが定番。青い袋に魔法使いのおじいさんが目印。
目次
東日本大震災をきっかけに
台湾と出逢う
小林賢伍さんにとっても、2011 年の東日本大震災は大きな転機となった。台湾から日本に寄せられた支援金が、200 億円を超えたと伝えるニュースに驚き、歴史教師の母に台湾の歴史や文化を学んだ。「台湾ってどんな国だろう」という好奇心と、母の「台湾へお礼に行ってきなさい」という言葉に背中を押され、「あの時の感謝を台湾の人々に直接伝えたい」と、会社の退職を決意する。
そして2016 年。小林さんは台湾に拠点を移し、写真家として活動を開始。最初に衝撃を受けたのは台湾の猛暑と、お祭りのように夜遅くまで活気ある夜市が毎日あることだった。それなのに朝も早く、朝食の種類も多い。「一日がとても長く、何か得した気分になるし、毎日新しい発見がある」と小林さんは目を輝かせる。街を歩くと、男女に限らず服装がフランクなことにも気がつく。きちんとした服装を求められがちな日本から来ると、それがとても開放的に感じられた。自由な国民性がありながらも、電車の待機列ではしっかり並ぶなど、モラルはきちんとしている。小林さんは台湾での生活で、新鮮な日々と、「プレッシャーが減ったような居心地の良さ」を感じているという。
国民的おやつ
「科学麺」広告ビデオに出演!
ある日、茶芸館でアルバイトをしていた小林さんに一通のメッセージが届いた。送信者は、店の常連客の友人で、台湾の食品関連企業・統一グループのマネージャーだった。「台湾が大好きな日本人写真家が働いている」と噂を聞き、自社のおやつ「科学麺」の広告出演を打診してきたのだ。「台湾の仲間たちと科学麺を手に、実際に台湾を一周してビデオを撮影する」と聞き、「絶対に参加したい!」と小林さんは一も二もなく承諾した。
その後、撮影で初めて科学麺を食べた時、台湾の仲間たちが見せた独特の食べ方は、小林さんを大いに戸惑わせた。「袋入りのインスタントラーメンなのに、袋の上から拳で叩いて、中の麺を砕きはじめたんです。ラーメンなのに、お湯を使わないんですよ! 『え?みんな何やってるの!?』って驚いたんですが、僕も真似して食べました。袋の中の砕いた麺に調味料の粉をまぶして、こうやって食べるんですよ」と、口に科学麺を注ぐポーズをとる小林さん。当時の衝撃は今も忘れられないようだ。
翡翠色の大地でみつけたもの
台湾で暮らし、各地を旅するなかで、特に目を見張ったのが大自然の近さだった。台北の街中からでも山が見え、交通も便利。沖縄より赤道に近く、木々の種類も異なる。台湾の自然は、緑色と表現するより、光り輝く翡翠のような感じがすると感じた。森林、草原、水辺、太陽光など、台湾の自然美がテーマの作品「翡翠大地」シリーズからは、艶やかな翡翠色の大地へ注がれる、小林さんの愛しむような視線が感じられる。
民族の多様性も台湾の特徴の一つ。台湾には、古くから台湾に居住している「本省人」、戦後に大陸から渡ってきた「外省人」、大陸から渡ってきたもう一つの漢民族「客家人」、漢民族がやってくる前から台湾に住んでいた「台湾原住民」の四つの民族が共存して暮らしている。小林さんは、ひとつの国の中に民族ごとの伝統文化や言語などの違いを見ることができることに、とても興味を引かれたという。
もっと知って欲しい、
美しい大自然と、台湾原住民
台湾の東西南北を巡ってきた小林さんに、おすすめの場所を教えてもうと、「まずは、絶対に東部! 南部もいい」と、力強い返事が返ってきた。台湾の山岳は、平地から急斜面に突き上がってるような地形が多く迫力があり、富士山よりも標高がある玉山や国のシンボルである阿里山の他にも、多くの秘境がある。台湾は国土の約75%が資源あふれる自然で、海沿いの街も多い。しかも、東部などに行けば台湾原住民の部落も多い。現在、台湾原住民は合計16民族。原住民の部落を訪ねると、文字を持たない言語や手編みの衣装、豊作に感謝する祭りや儀式もあり、台湾の起源を見ることができ、都会の忙しさを忘れさせてくれる。
各地の原住民部落を訪ね、現地人と交流を重ねながら撮影してきた小林さんにとって、最も印象深いのが台東の大鳥部落だ。そこは、小林さんが「異文化、異世界」を感じたという、百歩蛇を神と崇める排湾族の部落。海と川と山の間にある部落で、住民は自分で建てた家で、食料となる動物たちと暮らしていた。畑のカエルはご馳走だった。大きな門をくぐれば、皆が家族と同様の存在になる。誰かが病気になると皆が知っていて、誰かが結婚したら皆で祝う。そんな、「家族の村」のような暖かい安心感が小林さんを感動させた。「大鳥部落は観光地ではないですが、出逢う価値があります」と、小林さんは言葉に力を込めた。
写真を通して、
台湾の魅力を世界へ
台湾原住民に魅了され、「彼らのことをもっと知りたい、もっと彼らの魅力を発信したい」と話す小林さんからは、台湾と台湾原住民に対する限りない愛情が伝わってくる。小林さんが台湾に留まるのは、台湾の美しさと台湾原住民を世界中に知って欲しいから、ということに尽きるのだ。
台湾には、世界から見た立場やいろいろな問題があるが、この美しい島は変わらない。親切で情熱的な台湾の人々に心が温まる。「僕は台湾が好きだから、ファインダーを通して、台湾を世界に発信したい」と、小林さんは決意を燃やす。これからも、彼の目を通して伝えられる翡翠色の島は、さらに輝きを増し続けるに違いない。
小林さんが仲間たちとバイクで各地を旅する「科学麺」の広告動画(中国語)は、こちらのQR コードからどうぞ。
www.youtube.com/watch?v=Jn9X5CqJsR8
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